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by aru-henshusha

<日曜日だけど、仕事の話をしよう。> 第2回 高島利行(語研・取締役営業部長)―2―

まずは―1―からお読みください



●いい本をつくれば売れる、まずはそれだけ
――それでは、ここからは各論というか、私の聞きたいことをランダムに聞いていきます。まず、高島さんが普段仕事をするうえで、気をつけていることはありますか?
これは常に意識してるんですけど、自分は「内容が悪いから売れない」っていわないんですよ。それは前の会社でもなるべくそうしてましたけど、転職してからはより意識してます。内容が悪いから売れないっていうのはすごく簡単なんですけど、じゃあどうすんのってなったら、どうしようもないじゃないですか。だけど、売り方の問題だったらいくらでも手が打てるわけですよ。内容のことを問題にしちゃうと、それ以上何もできなくなってしまうので、基本的には内容については、よほどのことがない限り問題にしません。
後は、意識してっていうより身についちゃったんですけど、(本が売れないのは)携帯電話のせいだとかね、ゲームのせいだとかっていうのも、基本的にはまったく思わないですね。だって、もしも携帯電話のせいだとしたら何もできないじゃないですか。だから、そんなこと問題にしてもしょうがないのかなって思っているんで。

――今日の話にあった「パブライン」なんですが、そのメリットを教えてください。
ざっくり説明すると、メリットの一つは自分たちの営業の成績がはっきりわかるということです。どんなことをやったらどういう効果が出たか、(売上データから)ちゃんと検証できる。逆に、検証しないと何の役にも立たないですけど。意識的にきちんと検証しようっていうつもりがあるんだったら、すばらしいツールだと思います。
もう一つは、他社のデータが全部わかるじゃないですか?たとえば、他社のうまくいかなかった企画を見ると面白いですよ。なんでうまくいかなかったのかを、自分たちでやる前に見られるわけですよね。そしたら、同じことをしなきゃいいわけだから。
あとは、この本ってこんなに売れてたのっていうような例も見られますしね。とくにパブラインの累計売上の数字を見ると、今まで気づかなかったようなロングセラーの商品を見つけたりして。これは、とくに小さい出版社にとってはすごくメリットがあると思います。

――逆に、そのデメリットは?
デメリットの一つは、パブラインの数字ばっかり気にしちゃうことでしょうね。よく、アマゾンのランクを気にする著者の方がいるじゃないですか。ランクがちょっと上がったとか、下がったとかね。同様にパブラインをずっと見ていて、その数字ばっかりになっちゃうのって、とても危険ですよね。
もう一つは(その数字を)もっと引いたところから見たときに、どういう意味があるのか考えないというのかな。たとえば一冊が二冊になったって、そんな大した違いじゃないわけですよ。なんですけど、そういうワナに陥りがちなものなので。
あと、パブラインは、社内でみんな見れますからね。そうすると社内の関心もそこばっかりに集中して、結局(パブラインのデータを提供する)紀伊國屋ばかりに営業しちゃうわけですよ。だから、怖いのは自分たちで自分たちの営業活動の範囲を狭めちゃう危険性があることじゃないですか。販促の方法も、それからお店の範囲も。そういうのはデメリットとしては最大でしょうね。ただ、これはパブラインに限った話じゃなくて、範囲を限定した売れ行き調査に共通する弊害でしょうね。

――高島さんの勤める語研は語学書専門の版元ですが、その方向性は今後も変わらないのでしょうか?
変えないでしょうね。っていうか、変える必然性もないかなと思ってます。もちろん、ほかにジャンルの柱を持つべきじゃないかという考え方もあると思いますし、それ自体は考えに値するかなとは思いますけど、現状では会社の名前がやっぱり語研って名前ですから、特化するべきかなというところですね。
あと語学だけに特化している出版社って何社かあるんですけど、いっぽうで、たとえば、ベレ出版なんかは語学だけじゃなくて、数学とかの本も出しているんですよ。大人の勉強というか、教養というか、そういったところにいってすこし幅を広げていきたいというふうに以前からおっしゃってますね。ただ、語研の場合は、語学だけに特化したかたちでやるべきだろうなと。逆にいうと、そういう特化したかたちで生き残れるような方法を考えるべきだろうなと思います。

――ただ、専門書の版元が一般書に進出するのは、最近の潮流のようにも思います。
もしほんとに、まったく別のジャンルについて出していこうということになると(今は会社としても全然そんなこと考えてないですけど)、そういう場合はたとえば別の会社を立ててる出版社ってのもいっぱいあるわけですよ。だから語研であえて別のジャンルを出す必然性というのはまったくなくて、別の出版社として別のものを出すということなら、将来的には、もしかしたらあり得るかもしれません。
ちょっと話がそれちゃうんですけど、アメリカの出版社って「インプリント」っていって、社内に出版社をかかえていくような、レコード会社のレーベルみたいなイメージの業態があるんです。たとえば新ジャンルを立ち上げるとか新雑誌を立ち上げるっていったときに、プロジェクト的にインプリントを立ち上げてくやり方ってあるんですよね。これから先のことを考えると、インプリントに近い感覚の、そういう可能性ってのは当然あるだろうなと。

――私のような編集者に、営業の人間として、何かいいたいことはありますか?
いいたいことはいっぱいありますけど、やっぱり、変に売り方とかにこだわるよりは、いいものをつくりましょうよ、ですかね。一言でいうと。あと、なんていうのかな、いい本をつくったら売れるんだって思って仕事をしてもらいたいし、そうあるべきかなと思いますね。
それにからんできますけど、この本は最初から売れなくてもいいんだという考え方はあんまりかなと。なくなったヤスケン、安原顯さんはやっぱりすごい編集者だと思いますよ。雑誌にしても書籍にしても、いろんなインパクトのあるものを出されて、いろんな影響を与えた方です。ただ、以前「リテレール」っていう雑誌を出されてたときに、本なんてのは3000部くらいしか売れないんだみたいな話をされてたことがあって、自分で売れる範囲を限定することはないんじゃないかなって、気はしたんですよ。
そりゃ、図書館向きとか学術的な文献とかであれば、これは日本全国で研究している人が300人だから300冊ってこともありだと思いますけど、少なくてもある程度一般的なところを狙った本であれば、自分で範囲を決めてしまうってことはないんじゃないかな。
いっぽう、何年か前の文教堂の新年会で幻冬舎の見城徹さんって社長さんが、あの方も編集者としてすごく有能な方だと思いますけど、そのときに売れる本ってのはよい本だっておっしゃってましたね。すごく身にしみましたけど。じゃあ、売れなかったらどうすんだ。売れる本をまたつくるんだと。

――これからの語研のビジョンを教えてください。
会社としてのビジョンは、自分としてははっきりあって、ジャンルはしっかり守ったうえで、やっぱり会社としては今より大きくなっていきたいとは思っています。むやみやたらに拡大するってことじゃなくって、しっかり守ったうえでってことですね。
それには、やっぱりほかが出せないものを出すっていうことでしょうかね。語学のジャンルでは、大学書林っていうある意味ものすごい出版社があって、世界中のありとあらゆる言葉の本を出してるんです。ほかのところが出さないようなもの、っていうか出せないものを出していれば、商売としても面白いのかなっていう気がしますね。
ただ、そういう会社としてどうこうっていう話をすると、絶対に出てくるのが人の問題だと思うんですよ。人をどうしていくかっていうことが重要な課題なので、思っている以上に時間がかかるかなって。

――くわえて、高島さん自身のビジョンも教えていただけますか?
自分自身はそれとからんでくるんですけど、出版、書店やそれを取り巻くところもふくめてですが、出版関係の仕事ってすごく面白いと思うんですよ。10年ぐらいやって、ようやくほんとに面白いって思うようになったのかな。せっかくこんな面白い業界にかかわれてるんだから、この業界を盛り上げられるような人を育てていきたいですね。
もちろん、自分自身もプレイヤーとして色々やりたいってのはありますけど、それだけではなくて、やっぱりもっともっといろんなところで、いろんな人を盛り上げていきたいってところがすごくあります。ここ数年セミナーの講師やったりだとか、会社にも色々見学に来てもらったりとか、ポット出版のHPの連載もすごく大きいです。
とくに他の社で経験のないまま一人で頑張ってる小さい出版社の営業の人間なんかと話をしてると、もどかしくてしょうがなくて。これぐらいは知っとけよ、みたいなことがまだ山ほどあるんですよ。そんな偉そうにいえるあれじゃないんだけど。なんていうのかな、すごく頑張ってるのに、基本的な方向性が違ってて空回りしちゃうことって、自分も含めてですけど、ありがちな話なんで。そういうのをポットの連載ですこしずつ変えたいと思いますね。
すごく具体的な話ですけど直納の伝票の切替の話を書いたことがあるんですけど、あれが一部ですごく受けてですね、こんなこと教わったことなかったって話がいっぱいあって、そういうことをこれから自分でやりたいし、またできることなのかなって思いますね。

――最後に、同業者の方などにメッセージをいただけますか?

これから先も多分ずっとこの業界で仕事をしていくんだと思いますけど、「子供に自慢できるような仕事」がしたいですね。逆に、子供に自慢できるような仕事ができているのか、って問いかけはしたいですね。
ちょっと話それちゃいますけど、小学館さんとか集英社さんとかね、ほんとうらやましいですよ。「ポケモン」とか「ジャンプ」の漫画とかね、せっかく出版業界で働いていたら、ああいう、あそこまで行かなくても、なんか子供に訴えかけられるしっかりしたものをやりたいっていう気はしますよね
*このインタビューは、2006年2月18日の取材をもとに、ある編集者が構成・執筆したものです

★本企画、<日曜日だけど、仕事の話をしよう。>の趣旨については、こちらをご参照ください。
取材協力者の募集はそのうち再開します。
とくに、出版関係以外の方にご応募いただければ、幸いです。
(自分の視野を広げたいので)

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by aru-henshusha | 2006-03-26 23:59 | 仕事の話をしよう。