ある編集者の気になる人・事・物を記録したブログ。ときおり業界の噂とグチも。


by aru-henshusha

組織には、「過去」を見る人も、「今」を見る人も、「未来」を見る人も必要だ。

長い引用をしますが、出版界の現状を把握するため、熟読をお願いします。

実売データーは未来を示さない。(ジュブナイルポルノ作家わかつきひかるのホームページ)

私は自分の本の売れ行きをはっきり知らないです。増刷のお知らせだったり、編集者との雑談だったりで、ああ、あの本は売れたんだな、あの本は売れなかったんだな、とぼんやりと知る程度です。
ですが、編集者はどこの社のどんな出版物であっても、私の本に限らず出版されているすべての本の詳細な売りあげデーターを、瞬時に知ることができます。

なんでそんなことができるのかというと、大手の本屋さんや流通業者は、本の売りあげに関するデーターベースを構築しているんです。
データーベースにアクセスし、ペンネームで検索をかけると、詳細な売りあげデーターがすぐに出てくるそうです。
<引用者注 僕の利用しているデータベースでは、著者名検索の機能はありません>
(中略)
この実売データー、たんなる数字の羅列にすぎませんが、編集者の熟練の目は、この数字からいろんなことを知るわけです。
(中略)
つまり、実売データーからは、「過去」そして「今」の売れ線が浮かび上がってくるわけです。
新しいものが出にくくなってるのは、実売データーのせいかもしれません。だって、新しいものってデーターがないので、新しいものを書こうとしたとき、「○○ものは売れません」と言われてしまう。

わかつきさんが悩まれ、憤っている気持ちは、立場は違えど僕にもわかります。

僕自身、「過去」「今」を理由に、いくつかの企画を潰されたことがありました。
ときには露骨に、「この著者の本は(売れてないから)もういらない」と言われたことまであります。

けれど、版元にいるすべての人間が、「実売至上主義」ではありません。
営業部の人間でさえ、じっくり話し合えば、ただ数字だけを見ているというわけでもないのです。


組織には、立場上、「数字」の話を第一にする部署や人が存在します。
そういう人が一人もいないなんて危なっかしいし、企業の存続には必要な存在でしょう。

だけど、同時に、組織には「数字以外」のものに目を向ける人も必要です。

出版に限れば、著者の筆力や企画・構想力、志など、「数字」として見えにくいものを見据える人間。編集者とは、まさにそういった存在ではないでしょうか。
(これは、編集者だから数字は見なくてもいい、という意味ではありません)


ある企画が、本当に「未来」の可能性を感じさせるなら、編集者はその「未来」について熱く語ればいい。
その思いが「今」「過去」しか見ない(と言われる)人たちを動かすこともあるし、その積み重ねが、結果として出版界に新しい風を吹き込んできたはずです。


もっとも、そのときに「担保」となるのは、けっきょくのところ「今」と「過去」なのだと思います。
売れる売れないを問わず、それまでの仕事振りを見て、「未来」を感じさせない著者には、編集者も熱意を抱けないでしょう。

わかつきさんは、
今ある仕事に一生懸命に取り組むことが、「未来」に行く方法なのかもしれません。
と書かれていましたが、僕も同じように考えます。

別に数字を見てではなく、わかつきさんの「過去」と「今」の仕事振りを見、まだ見ぬ「未来」を思い描いて、お仕事をお願いする同業者もいると信じています。
[PR]
by aru-henshusha | 2006-10-03 14:02 | 本・出版