ある編集者の気になる人・事・物を記録したブログ。ときおり業界の噂とグチも。


by aru-henshusha

「当たり前のこと」が「当たり前」に書かれている。だから、この本はすばらしい。

c0016141_16192040.jpg正直に書こう。
僕はいま、緊張している。

なぜか? それは、いまから、この本の感想を書くからだ。

はじめての課長の教科書

この本は、じつは発行元の出版社を通じて、「著者」が僕に送ってきた。
偶然にも、著者は僕と同じエキサイトブロガー(ブログ名:NED-WLT)で、以前から当ブログを読んでいたらしい。

そんな、細い、でも不思議な縁で、この本は僕の手元に届いた。
逆に、僕がこれから書く感想は、確実にこの本の著者の元に届くはずだ。


こういうたとえが適当かどうかは知らないが、僕はこの感想を「僕と著者との真剣勝負」だと思っている。

本を、書きました。(NED-WLT)

でこの本にかける著者の想いを知り、僕は、この感想は「ガチンコ」で書かなければいけないと思ってきた。

必要以上に褒めるわけでもなく、必要以上に貶めるでもなく、他社の編集者である僕の「政治的な立場」もひとまずおき、いまの自分がこの本を読んで感じたことを、正確に、誠実に書く。

そう、そういう姿勢で、いまから感想を書いていく。
(続きは下のリンクから)



この本には、「当たり前のこと」が「当たり前」に書かれている。
こう書くと、何やらつまらない本のように見えるが、そうではない。

言葉を補って書こう。

この本には「課長が学んでおくべき、当たり前のこと」が「奇をてらわず、当たり前」に書かれている。
だから、この本はすばらしい。


編集者という立場から言うと、この二つの「当たり前」を守って本をつくることは、意外にも難しい。

まず、第一の「当たり前」。
この本で言えば、「課長が学んでおくべき、当たり前のこと」を、もれなく一冊に収めること。

これが思った以上に難しい。


なぜなら、並の著者では、どうしてももれが出る。
読者(ユーザーといったほうが適切か)が必要としている知識、ノウハウ、解決法、のすべてを丁寧に語ろうとせず、「著者が思う当たり前」のレベルで記述を止める書き手が多い。

そして、並の編集者はそれを見逃す。ひどい編集者は「自分の当たり前」の範囲で、本来ならば残すべき項目を落としてしまったりもする。
そういうことを「編集」と勘違いしている人間もいるのだ(もしかしたら、自分もかもしれないが)。


本書は、「第1章 課長とは何か?」だけで、以下の項目が用意されている。

1 課長になると何が変わる?/2 課長と部長は何が違う?
3 課長と経営者は何が違う?/4 モチベーション管理が一番大切な仕事
5 成果主義の終わりと課長/6 価値観の通訳としての課長
7 課長は情報伝達のキーパーソン/8 ピラミッド型組織での課長の役割
9 中間管理職が日本型組織の強み


「1 課長になると何が変わる?」のポイントは、ざっくり言えば、

・課長は正式な管理職の最下層の地位
・係長から課長に昇進できるかどうかが、キャリア最大の山

の二つである。

「何だ、そんな基本的なこと」と思った方もいるかもしれないが、僕みたいな「平社員」にとっては、そんな基本的なこともわからない。
そして、この本は、そういった(なれるかどうかは別として)「課長予備軍」にとっても、何年か先にりっぱに教科書として使えるよう、当たり前のことから説き起こしているのだ、と僕は思う。


次に、第二の「当たり前」。

この本の記述は、とても、とても「素直」である。
それは、言い方を変えれば「素っ気ない」ぐらい、シンプルに書かれている。

たとえば、「部下を叱り変化をうながす」という項目の冒頭。
他人を叱るのが上手な人は、ある真理に気がついている人です。
それは『人間とは、自分から「変わる」ことにはあまり抵抗しないのですが、自らを誰かに「変えられる」ことにはとても強く抵抗する』ということです。
部下の仕事のやり方を改善したいのであれば、課長の仕事は、叱るというアクションを通して「部下が自らの力でこれまでの仕事のやり方を変える」ようにうながしてやることになります。(同書76ページ)
特に派手な言葉も使わず、淡々と書かれたこの一文。
しかし、その淡々とした筆致だからこそ、叱るという行為の本質(太字部分)が、よりダイレクトに伝わってくると僕は思う。


編集者(特にビジネス書の編集者)には、他社・類書との「差別化」を重視するあまりに、担当作の文章であったり、見出しであったりにエッジをきかせたい、という思いをもつ人間が少なくない。

しかし、これは程度問題で、あまり強い言葉・派手な言葉を使ってしまうと、その言葉のインパクトがまぶしすぎて、そこで伝えたいことのメッセージが見えないことがある(これは僕自身に向けた言葉でもある)。

その危険性が、この本にはまったくない。
徹頭徹尾、「奇をてらわず、当たり前」に書かれた文章だからこそ、ストレートに内容が読者の中に染みていく。

その意味でも、本書はまさに「教科書」なのである。


さて、二つの「当たり前」が、どれだけ「当たり前でないこと」だか、少しは伝わっただろうか?

正直に書くが、この本が発売当初、売れてるにもかかわらず、僕の周りの編集者の間では評価が低かった。
それはきっと、二つの「当たり前」の意味を、彼らが理解できなかったのであろう。

さらに告白すれば、僕も今回の献本で本書を通読するまで、その「当たり前」に隠れた、決して当たり前でない本書の価値を、十分にはわかっていなかったと思う。


「当たり前のこと」を「当たり前」に書いたからこそ、この本はこれからも、ずっと新たな読者を獲得し続けるはずだ。

なぜなら、僕らが仕事の中で、本当に大事にしなければいけないことの多くは、わかったつもりになっている「当たり前」のことなのだから。

それに気づかせてくれた本書は、僕にとって、ビジネス書作りの「教科書」でもある。


*当ブログへの献本は、以下のルールに則っていただける限り、歓迎いたします。
当ブログへの「献本ルール」を、ここらでハッキリ決めようと思います。
[PR]
by aru-henshusha | 2008-03-10 16:28 | 本・出版