ある編集者の気になる人・事・物を記録したブログ。ときおり業界の噂とグチも。


by aru-henshusha

悲しいけれど、「本で読ませたいこと」と「本で読みたいこと」は、必ずしも一致しない。

c0016141_0353819.jpgこれから紹介するのは、担当編集者から献本いただいた一冊。

根まわし仕事術

正直、このテーマで一冊丸ごとというのはかなり厳しいんじゃないかと思ったのだけど、始めから終りまで何とか「根回し」だけでもたせている。

その意味では編集者の工夫、著者の力量を感じたのだが……

失礼を承知で言うけれど、この本、編集者が期待したほどの売れ行きを見せていないはずである。

なぜなら、やはりテーマがよろしくない。
「根回し」というのは、少なくとも今の時代、多くの人にとって「本で読みたいこと」ではないだろうから。


誤解をしないでほしいのだけど、僕自身は「根回し」の重要性はよくわかっているつもりだ。

たとえば、企画を通すときでも、本のタイトルを決めるときでも、僕はここぞというときは「根回し」をする。
というのも、自分の出した企画がどれだけ売れそうなものだろうが、提案したタイトルがどれだけよさげなものであろうが、会社(の上層部)というものは「常に合理的な判断をするとは限らない」からだ。

会社には会社の、各部署には各部署の、上司には上司のさまざまな思惑があり、それを未調整なまま自分の意見を押し通そうとすると、(その意見に多少の根拠があったとしても)思わぬ反発を生むことも少なくない。

だからこそ、僕は「根回し」というものを軽視しないし、ある意味、それは「本で読ませたいこと」だとも思う。


ここで問題なのは、読者が本で読みたいことと、作り手(著者や編集者)が本で読ませたいことは、必ずしも一致しないという点である。


個人的には「根回し」というのは、多くのビジネスパーソンには必要なスキルだと思うし、それをテーマにした本書にはある程度の読者を獲得してほしいとも思う。

けれど、今の読者、とくにビジネス書のメインターゲットである30前後の男女は、「根回し」といういくぶん古風な、そしてある程度手間がかかるスキルを本を読んでまで習得したいだろうか?

そう考えたとき、僕は残念ながら「ノー」と言わざるを得ない。


同業者の方ならわかるだろうけど、ここ最近のビジネス書の流行のひとつは、「いかに楽をして成果を出すか」だ(以前紹介したこの本は、その典型である)。

そういった本がいつまで支持されるのかは不明だけど、そういうテーマを好む今の読者にとって、「根回し」というテーマは、ちょっと逆張りが過ぎたのではないか?

本書は、根回しの順番やキーパーソンの見分け方など、内容としては実践的な項目が多い「使える本」だった。

それだけに、このタイミングで出されたのが悔やまれる。
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by aru-henshusha | 2008-08-24 01:20 | 本・出版