著者にとっての一冊と、編集者にとっての一冊。
2005年 05月 10日
先日、「新人編集者の綴り方★」のこの記事を読んで、ドキッとする文章にぶつかった。
編集者の「今」にとって、何冊ものうちの一冊でも、著者さんにとっては、「オンリーワン」なんだ。
私にとっても、それはそれはオンリーワンだけれども、仕事をしていると、何冊ものうちの一冊になってしまう。
一冊の本をめぐって、編集者と著者さんの間には、ちょっとであれ多くであれ、何らかの温度差があるように思う。
自分にも、そういう現実を悩んでいた時代がたしかにあった。
でも、いまの僕は、その「温度差」に違和感を覚えず、当たり前のものと感じてしまっている。
僕はこれまで、50冊近くの本を編集してきた。
そこそこ売れた本もあれば、まったく売れなかった本もあった。
だけど、そのなかで「特別」扱いできた本が、何冊あっただろう。
一冊の本は、著者にとっては初めての著作だったり、入魂の大作だったり、どうしても売りたい作品だったりする。
しかし、編集者にとってはそれは、一年に作る何冊か(それは人によって十冊、十五冊にもなる)の内の一冊だ。
発売後一か月もすれば、重心は次の本に移ってしまっている。
こないだ作った本をフォローしなきゃ、と思いながらも、次の本、その次の本の仕事に追われている。
今日、少し前につくった本の著者から電話があった。
彼は、著書の売れ行きを気にしていた。本を売るために、自分に何ができるか教えてくれとも言った。
彼の「熱」にふれて、僕は自分の「冷たさ」を、久しぶりに自覚した。
一冊の本に対して、著者と編集者が、まったく同じ思いを抱くことは難しいと思う。
けれど、たとえ一緒の思いをもち得なくても、その思いを感じたり、理解しようとする気持ちは大切だ。
著者の熱に、少しでも応えられる編集者になっていきたい。