『わたしを離さないで』については、できるだけ話さないで。
2006年 08月 18日
たとえば、物語のあらすじを説明したり、そのテーマを取り上げる方法。
あるいは、心に残った一場面だけにスポットを当ててもいいだろう。
もっと言えば、小説を離れて、著者自身の魅力を語るのも一つのやり方だとは思う。
だけど、いまから紹介する本について、僕はそのどのやり方も選びたくない。
おかしなことを言うようだが、僕はこの『わたしを離さないで』という本については、できるだけ話したくないのだ。
誤解しないでほしい。
僕はいま、この本を、誰かに薦めたくてたまらない。
けれど、一つだけ恐れていることがある。
それは、どんな方法を選ぶにせよ、自分の言葉の拙さゆえに、この本が「読まなくてもいい本」だと思われないかということだ。
どんなに言葉を尽くしたところで、いまの僕には、この物語のよさの数百分の一さえ伝える自信がない。
あらすじを説明しようが、テーマに触れようが、心を打った場面を紹介しようが、僕という「不純物」が介在することで、この本の真価を伝えきれない気がして怯えている。
だから、ただ一言、読んでくれと言いたい。
どんな本かもよくわからないのに、こんなことを言われては困惑するかもしれないけど。
僕は、自分の不完全な言葉で、この完全な物語に瑕をつけたくない。
この物語を、完全な姿のままで、新たな読者に受容してほしい。
だから僕は、『わたしを離さないで』については、できるだけ話さない。
僕の下らないノイズを聞く暇があるなら、さっさと書店に行ってこの本を買うべきだ。
どんな賛辞も、その本から受ける感動とか、読んでいる時間のかけがえのなさに比べれば、かなわないと僕は思う。
買った。読んだ。よかった。
この作品については、それ以外の余計な言葉を言う資格が、僕にはない。