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ある編集者の気になる人・事・物を記録したブログ。ときおり業界の噂とグチも。


by aru-henshusha

ひとりでは、多すぎる。ひとりでなければ、少なすぎる。(ヒトリゴト52)

アメリカの女流作家、ウィラ・キャザーが、
ひとりでは多すぎる。ひとりではすべてを奪ってしまう。
ということを書いている。ここの「ひとり」とは恋人のこと。相手がひとりしかいないと、ほかが見えなくなって、すべての秩序を崩してしまう、というのである。

『思考の整理学』42ページ)

本屋で何気なく手に取ったこの本で、この言葉を見つけたとき、
僕はずっと解けなかった数学の問題が、いっきに解けたような気がした。

そう、あの日、君に言われた、

「お互い違う人を見たほうがいい」

という言葉の意味が。


ほかの人のことはよく知らないけど、僕たちは、
お互い律儀に、ずっと「相手ひとり」を見てきた。

だけど、僕たちは、完璧じゃなくて(あるいは互いが完璧を求めすぎて)、
その「ひとり」のために、ずいぶん悩んで喧嘩もした。


僕が君に心ない言葉をぶつけると、君は必ず、
「だったら、あなたが私を捨てればいいでしょう」と言い返した。

それでも僕は、その「ひとり」を手放すことができなかった。

「ひとり」は僕の生活のなかで、たしかに「多すぎる」存在で、
でも、その「ひとり」がいなくなったら、僕にはほとんど何もなかったから。


けれど、君にとって、僕はもう「すべてを奪う」だけの存在だったんだよね。
だから、僕は君の「ひとり」ではなくなった。


何だかんだいって、僕は君の「言いつけ」を守る男で、
いま、精一杯、違う人を見ようとしてる。

でも、本当に見てるだけなんだ。


君より、きれいな人はいくらでもいる。
君より、かわいい人もいくらでもいる。
君より、頭のいい人もいくらでもいる。
君より、僕の仕事や立場を理解してくれる人もいくらでもいる。

けれど、そういう人が、僕にとって次の「ひとり」になるのだろうか。
(むろん、相手の意思が第一だけど)僕には、まだそう思えない。

僕の「ひとり」は、まだ君だ。
指定席には、相変わらず君が座り続けている。


僕も君も、けっきょく「ひとり」しか見られない人間だと思う。

その「ひとり」がお互いである必要はないけれど、
君に新しい「ひとり」ができれば、君はまたその人を見続けるだろう。

たぶん、そういう愛し方しか、僕らはできない。
でも、それは決して、言うほど悪いものではないと僕は思う。


「ひとり」は奪うだけのものではない。

僕は、「ひとり」に色々なものをもらったよ。
それは、僕自身が一人になったとき、このなかに生きている。

奪われるだけなら、あんなに一緒にいられなかった。
次の「ひとり」ができたときに、そのことだけは思い出してよ。
by aru-henshusha | 2006-12-17 17:14 | 不定期なヒトリゴト。