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ある編集者の気になる人・事・物を記録したブログ。ときおり業界の噂とグチも。


by aru-henshusha

この本はなぜ売れなかったのか、(編集者は)多分みんな知っている。

ひそかに注目していたこのシリーズ記事、ついに完結したようで。

この本はなぜ売れなかったのか?(1)(2)(3)(4)
(すべて『さおだけ屋はなぜ潰れないのか?』100万部?日記)

これらの記事で、山田真哉氏は、自身が監修されたこの本がなぜ(予想よりも)売れなかったのかを検証されてます。

その検証は非常に細かい部分にまで及んでいるので、興味がある方はくまなくリンク先を読まれるとよいでしょう。僕自身、その検証結果のほとんどに頷きながら拝見しました。

ただし、一点だけ山田氏とは見方が違う部分があります。

(1)からの引用↓
まず一番の敗因は、
そもそも「コンプライアンスというジャンルにニーズがなかった」
ということ。

これは関係者の一致した意見です(^^;

どんなに斬新な新規事業でも、そこに需要がなければ経営として失敗です。

ただ、これは最初からある程度分かっていたことなので、それほど致命的な失策ではありません。
(2)からの引用↓
しかし、前回も申し上げましたがコンプライアンス自体にはニーズが小さいです。

売る際に「コンプライアンス」をストレートに訴えても興味を持ってくれる人は少ないので、
宣伝として何かしらのプラスαが必要になってきます。


そこで、いくつかプラスαの要素を考えました。
「自己啓発」「成功本」「ビジネス小説」「翻訳小説」……。

その結果、第2の敗因が生まれたのですが、
「どれをアピールするのかで迷い、表紙に統一感がなくなってしまった」のです。

引用部分を見る限り、この商品の「ニーズのなさ」は、「本作りで+αをアピールすること」でカバーできると、山田氏や版元の人は考えていたようです。

でも、それってやっぱり、そうとう難しいことだと思うんですよ。


カバーにしろ、その他の販促にしろ、「すでにあるニーズを広くアピールする」ことは、簡単とまでは言いませんが、比較的シンプルな作業です。
だから、編集者や営業・広告の人間、著者にとっても、それほどブレずに進められる。

けれど、「ニーズがないところに、新たにニーズを生む(あるいは加える、あるように見せる)」のは至難の業です。

だって、それは本の「」ではない部分での勝負なんですから。
簡単に方針が決まらなくてもしかたがない。また、場合によっては狙いの+αがとってつけたように見られる危険性も高い。


「コンプライアンス」をテーマにした小説がアスコムから出る、しかも山田真哉が監修する。
この第一報を聞いたとき、「それはキツイっしょ~」と思った編集者は少なくないと思います。

多少ビジネス書にかかわっている編集者なら、「コンプライアンス本」のニーズがどの程度のものか知っている。
そのうえ、小説という形式は当たればでかいけど、外すときは思いっきり外す可能性が高いのもわかっている。

だからこそ、「山田氏(および版元)が、どこまでニーズを作り出せるのか」に注目していたことは事実です。
しかし、それは予想通り、かなり厳しい戦いでありました。


山田氏自身が言うように、本という代物は「商品8割、営業2割」というぐらい、商品力に負うところは大きいです。
そして、その商品力は、やはり本自体の「核」と密接にかかわるものだと思います。

「コンプライアンス」という核とズレたところで勝負しようとしたこの本は、そのチャレンジ精神はすばらしいですが、出版した時点で負ける要素はかなりあったのではというのが(他の編集者はなかなか言わないだろう)ホンネです。

むろん、そのことがこの本の価値と関係者の努力を貶めるものではない、とは思いますが。
by aru-henshusha | 2007-01-10 01:38 | 本・出版