他人のニーズを知りたいなら、まずは自分のニーズを探ればいい。
2007年 05月 26日
あなたの持ち込み企画が、通らない理由。(「シーズ」はわかった。で、「ニーズ」は?)
ひと言でいえば、「本の企画を考えるときは、読者のニーズを考えるのが重要だ」という内容の記事です。
これを読んでいただいたかはわかりませんが、しばらくして、「出版屋の仕事」さんがこんなつぶやきを……
読者の・・・(出版屋の仕事)
読者のニーズというのもよく分からない。こういう悩みを、じつは僕自身も持っています。
売れている本にニーズがあるのか。よく、パブライン*引用者注 某書店チェーンの売れ行きデータベースとかで類書を検討という話を読む。それは一瞬「ニーズに合わせる」行動のための調査に思えるが、結局「こういう本が売れているから、君も買いたまえ」という、出版社側からのアクションじゃなかろうか。
(中略)
世の中に、「売れてるらしいから買う」という人が多いってことを、ニーズと言いかえるのはちょっと違うような気がする。「ニーズ=必要」ってことにこだわりすぎてるのかもしれないが。
ただ、そういうことを突き詰めていくと、古い出版人の「読者をリードするべし」ってな話になっちゃいそうで、それはそれでおこがましい。
とにかく、私には視点を変えるのも読者の立場になるのも難しい。
また、同じように悩んだことがあるという編集者も少なくないでしょう。
だって、編集者がみんな、読者のニーズを正確にとらえているのだとしたら、書店には売れる本しか並ばないでしょうから。
「もう、ぶっちゃけ、読者のニーズなんてわかんねえよ」
編集の仕事をしていると、こう叫びたくなることだって、あるはずです。
(特に自信をもって送り出した担当作が大コケしたときとか)
実際、わからないですよ。だって、他人なんだもん。
僕らができることは、基本的には「想像」までで、(大規模な調査でもしない限り)他人のニーズが手にとるようにわかるわけではないでしょう。
それでも僕は、やはり「ニーズ」を考えることは重要だと思います。
だから、まずは「自分のニーズ」を出発点に、企画を探ることが多いです。
たとえば、僕は仕事をテキパキと進められるほうではありません。
こういう仕事をしているおかげで、だいぶ段取りは改善されましたが、それでも決して速いわけではない。
そこで、「段取り」とか「時間活用」の本を、だいぶ読みました。
中には使えない(自分に合わない)ノウハウもあったけど、その一方で本のマネをしたら、たしかに仕事がスピードアップするようなコツもありました。
そんなことを繰り返しているうちに、「ああ、オレと同じような悩みのある人って多いんじゃない?」と思う日が来ます。
そしたら、自信をもって「段取り」でも「時間活用」の企画でも出せばいい。
*ただ、実際には、「自分がこういうことで困っている」「こういうことを知りたい」と思った時点で、企画を出すことが多いです。
ここに書いたのは、かなりノンビリした例
また、ニーズ探しの「サンプル」は自分でなくてもかまいません。
僕は昔、「自分の母親が若いときにこんな本が出てたら、絶対買ったよなぁ」と思う本を作ったことがあります。
内容はここには書きませんが、男の僕が出すのは珍しい企画です。
それでも、身近な母親のことを考えながら作ったせいか、その本は比較的若い女性のニーズに合致したようで、思った以上の成果を出すことができました。
自分であれ、近しい人であれ、まずは目に見えるニーズをつかまえ、それがどれだけの広がりがあるかを予想して企画を出すというのは、ある意味、定石かもしれません。
もちろん、これだけ理論立ててやったって、外すときは外すんですよ。
それは、自分が思ったほど、そのニーズが普遍的なものではなかったからかもしれないし、確実にニーズはあったのだけど、著者の選考とか、本づくりのマズさで、その層からそっぽを向かれたのかもしれない。
あるいは、企画から出版する時点までにニーズが萎んでしまった、なんてこともありえます。
それを検証するのは大事だけど、何が正解かはわからないことも多いでしょう。
とはいえ、まったくニーズを考えないで企画をするよりは、ニーズの有無を考えたほうがいいのではないでしょうか。
それがひいては読者(消費者)について考えることにつながり、本づくりに一つの「背骨」みたいなものを与えてくれると思うので。
ちなみに、類書やら何やらのデータは、僕はあくまで「社内向けの数字」ととらえています。
「レベルも高くて(ウチは高いかな?)政治的にも難しい企画会議」においては、そういう武器も集めて総力戦で闘う必要もありますので……
*余談
「出版屋の仕事」さんが書かれたこの本、同業者にはとくにオススメです。
日本でいちばん小さな出版社
感想書きたいんだけど、なかなか時間が取れなくて。
あと余談の余談ですが、山田真哉さんの新作、(ビジネス書)編集者なら絶対読むべき。
食い逃げされてもバイトは雇うな 禁じられた数字 〈上〉
本のタイトルつけるのが苦手な人には、かなり参考になるはず。