マスコミの人間は、なぜ「誇り」をもてないのか?
2007年 11月 13日
社員であることに誇りを感じているか?――この質問に「あてはまる」と「ややあてはまる」を合わせた回答が最も多かった業種は、「団体・連合会・官公庁」(31.5%)であることが、ネットマイルの調査で分かった。次いで「食品・飲食系」(25.3%)、「電気・電子・機械系」(25.2%)という結果となった。一方、「あまりあてはまらない」と「全くあてはまらない」の回答が多かったのは、「マスコミ・広告・出版・印刷系」(63.7%)が最も多く、「運輸・鉄道、配送・物流」(43.6%)、「IT・通信・情報系」(42.2%)と続いた。この調査、対象人数も少ないし、そもそも「マスコミ・広告・出版・印刷系」というくくりが大雑把すぎるので、どれだけ実態をとらえているかは怪しいところだ。
ただし、自分自身がかつて所属していた会社のことを考えると、「誇り」がもてないと答えた人の気持ちも、少しわかるような気がする。
たいていの仕事はそうだと思うけど、会社に入る前と入った後では「ギャップ」がある。
マスコミというカテゴリーに入る会社は、とりわけ、そのギャップが大きいのではないか?
これが新聞・雑誌記者だとまた違うだろうけど、書籍の編集者である自分が経験した例を一つだけ挙げると、本作りに関するギャップがある。
僕は新卒で、ある編集プロダクション(出版社の下請け的なもの)に入るまで、単純に、本というものは、いい原稿を元に時間をかけて作るものだというイメージがあった。
むろん、そういうやり方で、いわゆる良書をつくる会社もあるけれど、そういう会社ばかりではないし、そういう本作りを求められる「ジャンル」ばかりでもない。
僕が当時、よく担当していた「雑学」というジャンルは、(一部の例外をのぞき)今思えば非常に荒っぽい作り方をしていたと思う。
ライターさんが他の本や雑誌からひっぱってきたネタを寄せ集め、大急ぎで原稿を書き(トリビアの部分は生かし、その前後をリライトする)、編集者はスピード勝負でまとめあげる。
できた本は、当然ながら「どこかで聞いたような話」が多く、競合他社と似たような本ばかりができ、書店には長く置かれずに消えていく。
あのころ作った本を、僕は家族や友達に、自信を持ってすすめられなかった。
その会社の一員であることに誇りがあるかと訊かれたら、やはり「ノー」と言っただろう。
そういう会社・自分が嫌で、僕はビジネス書の版元に移った。
もっとも、ビジネス書にはビジネス書の「ギャップ」があって、それに悩むことは今でもある。
ただ、昔と違うのは、そんな中でも、工夫や努力しだいで、少しは「誇らしい仕事」ができるようになったように思う。
組織にいる以上、わりと好き勝手言っている僕だって、いろんな縛りの影響を受ける。
けれど、その縛りの中で最大限の成果を出したり、縛りを少しずつでも広げたり、縛りのゆるいところを見つけたりして、ちょっとずつギャップを埋めていける可能性はある。
今の会社の一員であることに、誇りをもっているとは言わない。
でも、自分しだいで、「誇りがもてる仕事」をするぐらいの自由はまだ残っている。